看護師の転職で大人気のお仕事、産業保健師のリアルについて解説します。
・産業保健師って実際に何をしているの?
・デスクワーク中心ってどんなことをしているの?
・給料や休日など働きやすさが知りたい!
このように転職を検討している方へ、産業保健師の内部事情を伝えています。
産業保健師は病院とは全然違うデスクワークが多い仕事のため、実際に働いてみないとわからないことが多いです。
今後、保健師を目指す方や病院以外で働きたいと思っている看護師の方へ、産業保健師の仕事についてまとめています。
この記事を読めば産業保健の全体像が見えてきますので、ぜひ最後まで読んで将来のキャリアプランのヒントにしてください。
【この記事を読んだ人の感想】
はじめまして。記事たくさん読ませていただきました😌まだ面接も受けたことがなく全然知識がないのですが、産業保健師への興味関心高まってきてます。ありがとうございます!
— 派遣nsのはんぺんさん (@y9I6VuVOw0zpEYe) September 10, 2021
保健師は予防医学に携わるお仕事

保健師は保健師助産師看護師法で以下のように定められています。
「保健師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、保健師の名称を用いて、保健指導に従事することを業とする者をいう。
「保健師助産師看護師法 第二条」より
保健師は、主に「行政保健師」「産業保健師」「学校保健師」の3つに分けられます。
行政保健師 | 乳児から高齢者まで、地域の人々の健康をケア |
学校保健師 | 学校に勤務して生徒や教職員の健康をケア |
産業保健師 | 企業などに勤務して働く人の健康をケア |
保健師の約70%は、保健所や保健センターなど行政機関に勤務している「行政保健師」です。
その他に医療機関、地域包括支援センター、福祉施設、訪問看護ステーションで、障害のある人や介護が必要な人などの健康をケアする保健師もいます。看護師同様、様々な場所で活躍しています。
産業保健師は6%(全国に3000人程度)と保健師の中でもかなり希少な職業です。

そんな産業保健師の業務について実際に働いた経験をもとに解説していきます!
参考:予防医学学会
産業保健師は保健師全体の「6%」しかいないレアな職業

働く人数 | 3000人程度(保健師全体の6.0%) |
働く企業 | 製造業、IT企業、物流など様々 |
働く場所 | 本社を中心とした事務所、工場、健康保険組合など |
仕事内容 | 従業員の健康管理、疾病の予防 |
企業や工場などの「事業所」で働く産業保健師は6.0%で3000人程度です。
行政保健師は37,000人程度であり、これに比べるとかなり少ないです。
基本的には本社配置が多く、東京・大阪など都会に多いですが、地方では工場地帯に多い傾向にあります。
産業保健師の基本的な業務内容
産業保健師の業務は以下のようなものがあります。

・従業員の健康管理
・特定保健指導の実施
・健康フェアなどのイベント企画
・産業医との連携
・職場復帰支援
・メンタルヘルスケア
・ストレスチェックの実施
・怪我の手当て、急変対応
・職場巡視
・安全衛生委員会の出席

これから項目毎に細かく解説していきます。
従業員の健康管理
会社に所属している従業員の健康管理を行います。健康診断を行うだけでなく、事後措置まで行うのが基本です。
・健康診断の実施
・健診後の保健指導
・健康相談
健康診断・特定業務従事者健診の実施
年に一度の定期健康診断を実施するために病院との調整を行います。
健診当日は、スムーズに実施できるよう日程調整や会場の設置、受付などを行い健診機関のサポートします。
その他、夜勤者には半年に一度の「特定業務従事者健診」、海外赴任者には「海外派遣労働者の健康診断」を実施なければならないため、従業員への案内や病院予約などを行います。
健診後の保健指導
健診後の結果をもとに、精密検査が必要な人(要精査)や治療が必要な人(要治療)へ病院の受診を勧めたり、治療がきちんと行えているか確認したり、重症化予防を行います。
特に保健指導は、生活習慣病の予防のために最も重要な業務となります。
・2次検査の受診勧奨
・2次検査結果や治療状況の確認
・生活習慣改善の保健指導
保健師が行う健康診断の事後措置に関する具体的な活動は以下の記事にまとめています。
受診勧奨が上手くいかず悩んでいる人やこれから産業保健師への転職を検討している人はイメージがつきやすい内容になっています。ぜひ参考にしてください。

健康相談
健康診断の事後措置がメイン業務ですが、その他日常で従業員の健康相談に対応するなど、会社の保健室的な役割があります。
・頭痛が激しく、病院を受診するか迷っている
・手の痺れがある
・貧血で倒れてしまった
・やる気が出ない、気分が落ちている
相談者から情報を聞き取り、必要時病院への受診を勧め、生活指導(食事・運動など)を行います。
特定健康診査・特定保健指導
特定健康診査・特定保健指導や国からの実施義務があります。該当者がいる場合は、必ず実施しなければなりません。
特定健康診査とは、日本人の死亡原因の約6割を占める生活習慣病の予防のために、40歳以上の方を対象に、メタボリックシンドロームに着目した健診のことです。(定期健康診断と同時に実施されることが多いです)
特定保健指導とは、特定健診の結果から生活習慣病の発症リスクが高く、生活習慣の改善による生活習慣病の予防効果が多く期待できる方を対象に、保健師が生活習慣を見直すサポートを行います。
※高血圧・脂質異常症・糖尿病等で治療をしている方は対象外になります。
特定保健指導は該当者の基準が決まっていて、「積極的支援」「動機づけ支援」「動機づけ支援相当」の3つに分けられます。
・積極的支援の目的と指導ポイント
・動機づけ支援(動機づけ支援相当)の目的と指導ポイント

特定保健指導の実施率が下がると健保へペナルティが発生します!
保健師として知っておくべき内容なので、こちらの記事を一読することをおすすめします。

健康フェアなどのイベント開催
従業員のヘルスリテラシーを高めるための取り組みも保健師が行います。個人への保健指導だけでなく、集団へのアプローチ方法です。
・ウォーキングイベント
・社内の運動会
・健康診断時のブース設置
定期的に社内で健康フェアを行い、ポピュレーションアプローチを行うことで従業員の意識を高めます。
リスクの有無にかかわらず、集団全体に対して同じ健康管理を指導するアプローチ方法のこと。
会社では具体的にどのようなことを実施しているのか知りたい人は、実際に会社でできる健康フェア【おすすめ健康企画10選】を参考にしてください。
産業医との連携
治療しながら働く人や体に麻痺があったり仕事に影響がある症状を持っている人は、産業医の判断で無理なく働けるように業務に制限をかけることがあります。
従業員と産業医が面談をして、今後の方針について話し合うための面談スケジュール調整や産業医への情報提供を行います。
【産業医の連携が必要となる主な対象者】
・がん患者で抗がん剤治療を行いながら働く人
・手術後、職場復帰をする人
・メンタル疾患で休職後、復帰を目指す人
・脳卒中で体に麻痺がある人
就業制限が必要になった場合は、人事課や所属課長へ報告、就業の調整依頼を行うのも保健師の仕事です。
従業員が安全に、安心して働ける環境づくりをしています。
職場復帰支援
働く人の中には、検査や手術などで一時的に入院する人もいます。大きな処置を行った場合は退院後、体に負担なく働けるよう従業員のフォローを行います。
・手術後、退院後のフォロー
・就業制限の確認
従業員が安全に、安心して働けるように産業医の指示に従います。必要時、就業制限(時短勤務や動作の制限)をかけることもあります。
メンタルヘルスケア
メンタル疾患のある人のフォローやメンタル疾患を増やさないよう従業員の異常の早期発見に努めます。
個人からの相談や管理職からの報告を受けて面談を行い、ケアをします。
・メンタルヘルスの早期発見、対応
・休職者の体調や治療状況確認、フォロー
・休職後の職場復帰支援(復帰プログラムの実施)
・復帰時の職場への教育
メンタルヘルスケアについては以下の記事に詳細をまとめていますので、詳細を知りたい人は参考にしてください。

ストレスチェックの実施( 個人のストレスの把握、職場分析)
年一回のストレスチェックを実施します。(実施者は産業医や保健師など企業によって様々です)
・ストレスチェック代行業者へ依頼
・ストレスチェック用紙の配布、社内へ周知
・ストレスチェック実施後の結果を各部署へフィードバック
・高ストレス者の面談、産業医面談の調整
実施後の集団分析結果をもとに職場環境改善のためにどう変えたらよいのかを考え、会社へ提案していきます。主に管理職(課長)へフィードバックを行います。
フィードバック時は健康経営の考えをもとに、職場全体で働きやすい環境をつくることを目的として会社と連携をとります。
従業員が50名以上の事業所にはストレスチェックの実施が義務付けられていますが、今後は50人未満の事業所でも実施が義務付けられる予定です。

怪我の手当て・急変対応
製造業などは工場勤務の方も多く、労働災害が起こりやすいです。また、突然意識を失うなど急変が起こる可能性もあり、急変時の対応も行います。
・怪我の一次処置
・熱中症の対応、病院への搬送
・脳梗塞や脳出血、心筋梗塞で意識消失した場合の急変対応など
初期対応を行い、必要時病院受診や産業医に繋ぎます。
会社の中で医療従事者は保健師しかいないことが多いため、頼られることが多いです。心臓マッサージやAEDの使用など急変時の対応ができるようにしておくことが大切です。
職場巡視(産業医や衛生管理者と同行)
産業医や衛生管理者とともに定期的に職場巡視を行い、職場環境の管理を行います。近年問題視されているVDTの防止などを行っています。
・冷暖房の空調や照明の明るさなど健康障害が出ないか
・労災が起こりやすい場所の対策がきちんとできているか
・休憩室は十分な広さか、利用しやすいか
・休憩時間は十分確保できているかなど
作業環境を実際に見たり、従業員の意見を聞いたりして、安全に働けるよう管理を行います。
安全衛生委員会の出席
従業員が50人以上いる事業所については、安全衛生委員会の開催が義務化されています。
会社の衛生管理者または安全衛生担当、産業医とともに出席します。
【安全衛生委員会でやること】
・熱中症予防方法の周知
・ストレスチェックのフィードバック
・健康診断のお知らせ
・季節ごとに注意したい病気・感染症予防など
産業保健師になるには保健師資格の取得が理想!

産業保健師は保健師資格が必要ですが、現時点では看護師資格のみでも産業看護師として従事できる会社もあります。
しかし、保健師の専門性が高まってきていることから、最近では看護師ではなく保健師を採用する企業が増えてきました。

近年の動向から見ると、産業保健に携わりたいなら、保健師資格の取得をお勧めします。
保健師になる為には国家資格が必要になります。保健師を受験するためには以下の条件を満たしていなければなりません。
「看護師免許を取得していること」
「保健師養成のためのカリキュラムを修了していること」
国家試験受験資格を得るためには、保健師課程のある4年制大学に通うこと、または保健師養成学校に1年通うことが必須となります。
★国家試験の合格率について
2020年度、第106回保健師国家試験は、合格率は91.5%(昨年81.8%)。
そのうち、新卒者の合格率は96.3%(昨年88.1%)でした。9割近い合格率となっています。
看護師と同様、新卒者の合格率のほうが高いです。
大学の看護学部を卒業することは、看護師と保健師、両方の資格を取得することを意味していました。ですが、近年、多くの大学で保健師の資格取得は選択制になっています。
その背景として、実習先の確保が難しいこと、保健師の教育の質が低くなること、保健師資格を求めない看護学生がいることなどが挙げられます。
(人数制限があり、大学によって成績順や面接を実施して最終決定することがあるので、事前に確認しておきましょう。)
2024年頃から保健師は大学院制度がも進んできました。より専門性が高くなっているため、保健師のレベルも上がってきているので、大学院への進学も視野に入れてみてください。
第一種衛生管理者は取得しておくべき
産業保健師を目指す方は、第一種衛生管理者を取得しておくことをおすすめします。
未経験での就職は倍率が高く、非常に難しいため、産業保健に関する資格を取得しておくことで自己アピールのひとつになります。
・保健師資格を持っていれば、申請をすれば取得可能です。
・看護師のみの方で産業保健に従事されている方は、試験に合格することで取得可能となります。
保健師資格で第一種衛生管理者を申請したい方は、申請方法を解説しているのでこちらも参考にしてください。

産業保健師の給料事情

産業保健師の給料は、企業によって様々です。
雇用形態 | 平均年収 |
---|---|
正社員 | 400〜800万円 |
契約社員 | 300〜400万円 |
派遣社員 | 時給1,400〜2,200円 |
保健師ではなく看護師資格のみでも採用しているところがあります。
産業保健師は派遣社員や契約社員が多く、正社員はごくわずかです。
派遣社員、契約社員は給料が低くなり、退職金がないなどの条件があります。

実際に働いていた時の給料や年収調査結果は以下の記事にまとめているので参考にしてください。

産業保健師の主な勤務体制
勤務時間:基本的には日勤(9時~18時)
休日:土日祝日休み
産業保健師は日勤のみのため生活リズムが整いやすいです。
また、企業によっては休日に出勤をする必要があるところもあります。
コロナ禍以降、在宅勤務を取り入れる企業も増えてきました。在宅勤務もメリットやデメリットがあり、ワークライフバランスが調整しやすい傾向にあります。

実際に在宅勤務を経験したメリットやデメリットを以下の記事にまとめています。在宅勤務の実際を詳しく知りたい人は参考にしてください。

産業保健師の業務内容まとめ
産業保健師は、主に従業員の健康管理を行います。予防医学が基本となり、病気やケガを防ぐために保健指導や健康相談などを行います。
企業によって労働環境や労働条件は異なりますが、病院看護師に比べると断然働きやすくキャリアアップにもなります。
また、従業員と深く関わることができるため、とても楽しく、イキイキと働いている産業保健スタッフが多いです。
人気の高い職業で狭き門ではありますが、学力やスキルは関係なく、きちんと書類や面接対策をすれば誰でも産業保健師になることができます。
産業保健師への転職を検討している人は、ぜひこの機会に挑戦してみてください!
