企業で働く人々の健康を守るため、産業保健師はさまざまな業務を担っています。その中でも重要なのが「健康診断後の対応」です。
健康診断は、従業員が安全に働ける状態かを確認するために行われます。
検査結果によっては、再検査や治療が必要になる場合もあります。
その際、産業保健師が従業員に受診を勧めたり、必要なサポートを行ったりするのが「健康診断後の対応」です。
この記事では、健康診断後の具体的な流れや、対応に困ったときの対処方法について分かりやすく解説します。
【定期健康診断】結果到着後の流れ
健康診断の結果が届いたら、産業保健師は判定内容に応じて受診勧奨(必要な受診を勧めること)を行います。
健康診断の結果は、以下の5段階で判定されます。
・異常なし(問題なし)
・有所見(軽度の異常があるが、すぐに治療は不要)
・要精査(詳しい検査が必要)
・要治療(医療機関での治療が必要)
・治療中(すでに治療を受けている)
産業医を企業が雇っている場合の流れ
「経過観察」「要精査」「要治療」などの判定を記載し、就業の可否を判断。
健診機関と産業医契約をしている場合の流れ
産業医の判定が完了した後に企業へ結果が届くため、その判定をもとに保健師が受診勧奨を行う。
受診後、保健師が二次検査の結果を確認し、必要に応じて産業医が改めて就業判定を行う。
就業判定とは、従業員が現在の健康状態で業務を続けられるかを判断することです。必要に応じて以下のような就業制限が設定されることもあります。
・就業禁止(業務を行えない)
・残業禁止(所定時間内のみ勤務可)
・運転禁止(車両運転を伴う業務が不可)
従業員の健康と安全を守るため、健康診断後の適切な対応が重要です。
【必要に応じた従業員への受診勧奨】
健康診断の結果、産業医の判定で「要精査」「要治療」となった従業員には、適切な受診勧奨を行います。
企業側で「二次検査結果記入用紙」を用意します。
これは従業員が病院で受診した際に、主治医が記入するための書類です。
二次検査が必要な従業員に書類を渡し、受診を促します。
指定の医療機関またはかかりつけの医療機関で検査を受けてもらいます。
受診後、従業員から保健師へ検査結果を返送してもらいます。
理想は100%の回収ですが、未提出がないよう適宜フォローが必要です。
主治医の診断結果を確認し、従業員に継続的なフォローが必要かを判断します。
従業員の不正に注意!
受診勧奨を強く促すと、一部の従業員が虚偽の記入をして提出するケースも考えられます。

医療機関の印鑑や主治医のサインがあるかをチェックしたり、検査結果用紙や領収書を提出してもらうことで確実に確認をしましょう。
従業員が受診しない場合の対応方法
受診勧奨を行っても、すぐに受診しない従業員がいる場合は、以下の方法で対応します。
・保健師が直接面談し、受診の重要性を伝える
・直属の上司に協力を依頼し、受診を促してもらう
・産業医面談を実施し、産業医から指導してもらう
これらの方法について、未経験者にも分かりやすく解説します。
保健師が直接面談する
従業員の所属営業所を訪問、またはオンラインで面談を行い、受診を促します。重要なのは、従業員の気持ちを傾聴しながら、受診の必要性を伝えることです。
直属の上司や管理職へ依頼する
保健師が繰り返し受診勧奨しても従業員が応じない場合、管理職に協力を依頼します。
誰に依頼するかは企業の組織形態によりますが、通常は所属課の課長や直属の上司に相談します。
個人情報の取り扱いに注意!
従業員の健康情報はデリケートなため、必要最低限の情報のみ共有します。
例:「健康診断で再検査の指示が出ています。受診を促していただけますか?」
産業医面談を実施する
上司に依頼しても対応が難しい場合や、管理職が多忙で十分なフォローができない場合は、産業医面談を活用します。

保健師の声かけには応じなかった従業員でも、産業医からの助言を受けると受診を決意するケースは多いため、有効な手段の一つです。
二次検査結果が届いた後の対応方法
二次検査の結果が届いたら、必ず内容を確認し、適切な治療が行われているかをフォローします。また、記録を残すことも重要です。
「異常なし」の場合
異常がなかった場合は、結果を本人の台帳(記録用紙)へ入力します。
・受診日
・病院名、主治医
・診断名
・治療の有無
・就業の可否

問題がなかった場合でも、記録を残しておくことが大切です。
「経過観察」の場合
経過観察と判断された場合は、必要に応じて保健師面談を実施します。
・健診結果が大きく異常値でなくても、肥満や基礎疾患がある場合
・本当に治療が不要かを慎重に判断する必要がある場合
保健師の采配でフォローが変わるので、指導が必要な数値のボーダーラインを把握しておきましょう。
注意点:受診した診療科が適正であるかを確認する
病院を受診していても、適切な診断がされていないケースがあります。以下のような場合は、適切な医療機関を受診するよう促すことが重要です。
例:高血圧なのに、整形外科や皮膚科を受診している
例:適切な医療機関ではないため、必要な治療が受けられていない
「要治療」の場合
要治療と判定された従業員については、通院状況をしっかりフォローします。
・自覚症状がなくても、放置すると重症化するリスクが高い
・症状がないため、途中で通院をやめてしまう人が多い
要治療者へのフォローのポイントは以下の3つです。
・定期的に通院しているか確認する
・通院していても改善が見られない場合は、保健師面談を実施する
・適切な治療が継続できるようサポートする

スムーズにいくことは少ないですが、粘り強く関わっていきましょう!
二次検査の結果が届いた後も、記録の徹底と適切なフォローが重要です。特に、「経過観察」や「要治療」となった場合は、見落としがないよう慎重に対応しましょう。
保健師面談(保健指導)の実施
健康診断の結果で気になる所見があった人や、要治療と判定された人に対して、定期的なフォローを行います。
保健師面談対象者の選定基準
対象者の選定は基本的に保健師の判断で行いますが、以下の基準を参考にしてください。業種や職務内容によっては、これより早めの対応が必要な場合もあります。
| 血圧 | 160/100mmHg以上 |
| HbA1c | 8.0%以上 |
| AST/ALT | 100U/L以上 |
| γ-GTP | 100U/L以上 |
| TG | 150mg/dl以上 |
| LDL-Cho | 140mg/dl以上 |
| 尿酸 | 8.0mg/dl以上 |

特に重症化リスクが高い場合は、早期に面談を実施し、対応を進めます。
保健指導の進め方
保健師面談は、単に数値の変化を追うだけでなく、従業員が適切な医療を受けられるようサポートすることが重要です。
保健指導を行っても数値が改善しない場合は、セカンドオピニオンの提案や、より細やかな保健指導を行います。通院しても改善しない場合は、主に以下の3つの対応を行います。
通院先の適切性を確認
・受診している診療科が適切かをチェック
・必要に応じて他の専門科の受診を提案
改善が見られない場合は専門病院を勧める
・かかりつけ医だけでなく、より専門的な医療機関の受診を促す
生活習慣の改善フォローを行う
・食生活や運動習慣の見直しをサポート
・本人の状況に応じた具体的なアドバイスを実施
産業医面談の実施
産業医面談は、単なる健康チェックではなく、労働災害を防ぐための重要なプロセスです。
産業医面談の目的は、以下の2点です。
1.現在の健康状態で就業可能かを判断する
2.治療がうまく進んでいない従業員のフォローを行う
特に健康リスクが高い従業員については、早めの面談が必要です。
【産業面談対象者の選定基準】
産業医面談を依頼する基準は保健師の判断によりますが、以下のような健康リスクが高い従業員を優先します。
・二次検査未受診者
・高度肥満(BMI35以上)
・治療中にもかかわらず改善が見られない従業員(高血圧・糖尿病・肝機能異常など)
・健康状態が極めて悪く、このまま就業させると労働災害のリスクがある場合
特に、労働災害につながるリスクがある従業員は、早急に産業医面談を実施し、適切な措置を講じることが重要です。
危険度が高い数値の基準
以下のような数値が出ている場合は、即時対応が必要です。
| 血圧 | 180/110mmHg以上 |
| HbA1c | 9.5%以上 |
| AST/ALT | 300U/L以上 |
| γ-GTP | 300U/L以上 |
| TG | 500mg/dl以上 |
| LDL-Cho | 250mg/dl以上 |
| 尿酸 | 10.0mg/dl以上 |
検査項目の基準値を詳しく学びたい人は、各疾患のガイドラインを読んでおきましょう。

保健師は、これらの数値を迅速に把握し、すぐに対応できるよう準備をしておくことが重要です。
産業医面談後の保健師の対応
産業医面談の結果をもとに、以下の対応を検討します。
・就業制限の必要性を判断(例:残業禁止・運転禁止・就業禁止など)
・早急な医療機関受診の指導を行う
・定期的なフォローアップを実施し、改善状況を確認
産業医と連携しながら、従業員の健康状態に応じた適切な対応を進めましょう。
就業制限の最終決定権は事業者にあります。産業員の意見を踏まえた上で、保健師は事業者へ最終決定を促しましょう。
定期健康診断結果の事後措置まとめ
本記事では、産業保健師が実際に社内で行う「健康診断の事後措置」について、業務の流れや対応方法を解説しました。
これから産業保健の業務に携わる方は、ぜひ参考にしてください。
【事後措置の基本的な流れ】
1.健診結果が届いたら、産業医の判定をもとに受診勧奨を実施
2.対象者が受診しない場合は、以下の方法で対応
✔ 所属課長へ受診勧奨を依頼
✔ 保健師面談・産業医面談を実施
3.二次検査結果が届いたら、適切な治療が行われているか確認
4.未受診者や、就業継続にリスクがある従業員は産業医面談を実施
5.治療を継続しても改善が見られない場合は、産業医へ相談し対応を検討

