ストレスチェックは、産業保健師にとって年に一度の大切な業務のひとつです。
しかし「具体的な手順がよくわからない」「個人情報の取り扱いで何に気をつければいいの?」と悩む方も多いのではないでしょうか。
この記事では、ストレスチェックの準備から事後措置・結果保管までの一連の流れと、見落としがちな個人情報保護の注意点を、産業保健師の実務目線でわかりやすく解説します。
ストレスチェックとは?基本と法律上の義務
ストレスチェックの目的
ストレスチェックとは、労働者がストレスに関する質問票(選択式)に回答し、その結果を集計・分析することで、自分のストレス状態を把握するための検査です。
主な目的は以下の3つです。
- 一次予防:労働者が自分のストレス状態を早期に把握し、セルフケアを促す
- 二次予防:高ストレス者を早期に発見し、医師による面接指導につなげる
- 三次予防:職場全体の集団分析を通じて、組織としてのメンタルヘルス改善を図る
近年深刻化している「うつ病」をはじめとするメンタルヘルス不調を未然に防ぐことが、最大の目的です。
実施が義務の事業所・努力義務の事業所
2015年12月に「労働安全衛生法」が改正され、ストレスチェック制度が導入されました。
| 事業所の規模 | 実施義務 |
|---|---|
| 常時50人以上の労働者がいる事業所 | 義務(年1回以上) |
| 常時50人未満の労働者がいる事業所 | 努力義務(推奨) |
産業保健師として関わる企業が50人以上の場合は、毎年必ずストレスチェックを実施しなければなりません。
実施していない場合は、労働基準監督署への報告義務違反となる可能性があります。
さらに2025年の法改正により、労働者数50人未満を含む全ての企業に対して義務化されることが決まりました。今後は中小企業でも実施が義務化されます。
対象者・対象外となる労働者
ストレスチェックの対象となるのは、常時使用する労働者です。具体的には以下が対象・対象外となります。
質問票は57項目版と23項目版どちらを使う?
厚生労働省が推奨する質問票には主に2種類あります。
| 種類 | 特徴 | 向いているケース |
|---|---|---|
| 57項目版(標準版) | 「仕事のストレス判定図」の集団分析まで対応可能 | 集団分析・職場改善まで活用したい場合 |
| 23項目版(簡易版) | 回答の負担が少なく回収率が上がりやすい | 初めて実施する・従業員の負担を減らしたい場合 |
産業保健師としては、職場改善まで一貫して取り組むなら57項目版を推奨します。ただし回収率が低いと分析に支障が出るため、職場環境に合わせて選択することが大切です。
【ステップ別】ストレスチェック実施の流れ

ここからは、ストレスチェックの実施手順をSTEP順に解説します。
実施の数ヶ月前から、関係者で以下の項目を決めておきましょう。
- 実施者の選定(医師・保健師・研修を修了した看護師・精神保健福祉士など)
- 実施事務従事者の選定(補助業務を担う総務・人事など)
- 実施時期・実施期間の設定
- 使用する質問票の選定(57項目版 or 23項目版)
- 高ストレス者の選定基準の設定
- 面接指導を担当する産業医の確認・依頼
- 結果データの管理方法(紙 or システム)の決定
- 実施委託業者を使う場合は契約・情報管理の取り決め
ポイントは、実施者と実施事務従事者は明確に役割を分けて文書化しておきましょう。後のトラブル防止になります。
【紙で実施する場合】
質問票を従業員に配布し、記入してもらいます。回収の際は中が見えない封筒に入れて提出してもらうことが必須です。
回収は実施者または実施事務従事者が行い、事業者(会社側)は回収に関与しないようにしましょう。
【Web・システムで実施する場合】
近年はWebシステムを利用した実施が増えています。システムを利用する場合は、回答データがシステム事業者を経由して実施者にのみ届く設計になっているか確認が必要です。
- 実施前に全体周知メールを送る(目的と個人情報保護について説明)
- 締め切り1週間前にリマインドを送る
- 紙の場合は記入場所・回収ボックスを明確に設置する
- 未提出者には所属長経由でやんわり促す(ただし強制はNG)
高ストレス者の選定は、以下の2つの方法を組み合わせるのが一般的です。
方法①:素点換算法(数値による自動選定)
3つの領域(仕事のストレス要因・心身のストレス反応・周囲のサポート)の合計点をもとに判定します。基準は使用するシステムや実施機関によって異なりますが、「上位10%」を高ストレスとするケースが多いです。
方法②:医師・保健師などが確認する補足判定
数値だけでは拾えないケースもあるため、回答内容を確認して追加選定することも重要です。特に「自殺念慮」「希死念慮」に関わる項目に回答があった場合は、速やかに対応が必要です。
高ストレス者の選定基準は、実施前に事業者・産業医と合意を得て文書化しておくこと。事後に基準を変更するのは不適切です。
【面接指導の対象者】
高ストレスと判定された労働者のうち、本人が希望した場合に限り、医師による面接指導を実施します。会社が強制することはできません。
【面接指導までの流れ】
- 実施者(保健師など)から高ストレス者本人へ結果を通知
- 本人へ面接指導の希望確認(書面または口頭)
- 希望あり → 産業医・医師に面接を依頼・日程調整
- 面接指導の実施
- 産業医から事業者へ就業上の意見を提出(本人同意のうえで)
- 必要に応じて就業上の措置を実施
【産業保健師の面接指導における役割】
産業保健師が医師の面接前に事前面談を行うケースも多いです。事前面談では、労働者の状況を丁寧に把握し、産業医面談につなぐ橋渡し役を担います。
- 現在の業務量・残業時間
- 睡眠・食事・生活リズムの変化
- 職場の人間関係の状況
- 気分の落ち込み・意欲の低下
- 既往歴・現在の通院状況
ストレスチェックの結果は、部署・チームごとの集団として集計・分析します。個人を特定できない形に加工したうえで、職場改善の資料として活用します。
【集団分析の手順】
- 部署・チームごとに集計(原則10人以上の単位)
- 「仕事のストレス判定図」などを使って職場のストレス特性を可視化
- ラインスタッフ(管理職)・事業者に結果をフィードバック
- 職場環境改善のための取り組みを提案・実施
集団分析の結果を「情報提供して終わり」にしないこと。改善計画の立案・実施・効果検証まで継続してフォローすることが産業保健師の腕の見せどころです。
面接指導の結果は、事業所で5年間保存することが義務付けられています。
【保存すべき記録の内容】
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 実施年月日 | ストレスチェックおよび面接指導を実施した日付 |
| 労働者の氏名 | 対象者の氏名 |
| 面接した医師の氏名 | 産業医など担当医師の氏名 |
| 労働者の状況 | 勤務状況・ストレスの状況・心身の状況 |
| 医師の意見 | 就業上の措置に関する産業医の意見 |
また、ストレスチェック結果(個人票)自体も、少なくとも5年間は保管が求められます(電子データでの保管も可)。
個人情報取り扱いの注意点【産業保健師が押さえるべきポイント】
ストレスチェックの結果は、非常にセンシティブな個人情報です。
取り扱いを誤ると、従業員からの信頼を失うだけでなく、法的なリスクにもつながります。ここでは特に注意すべきポイントを整理します。
結果を会社に提供する際は「本人同意」が必須
ストレスチェックの結果は、まず実施者から直接本人に通知されます。事業者(会社)へ結果を提供する際は、必ず本人の同意を書面で得ることが法律で定められています。
- 個人のストレスチェック結果
- 高ストレス者かどうかの判定結果
- 医師の面接指導が必要かどうかの判断
本人の同意なく会社に提供できるものは、10人以上の集団を単位とした集計・分析結果(個人を特定できない形)です。
10人未満の集団分析は提供禁止
集団分析の結果を事業者に提供する際は、対象集団の人数が10人以上であることが必要です。
10人未満の集団では、個人が特定されるリスクがあるため、結果の提供は原則禁止です。
例外的に全員の同意がある場合のみ提供できますが、実務上は困難なケースがほとんどです。
- 小規模部署は近隣部署と合算して集計する
- 「10人未満のため集団分析の提供はできません」と事業者に説明する
- 代わりに全社・全部門のまとまりで分析結果を共有する
外部委託業者との情報共有の注意点
実施業務を外部のシステム会社・機関に委託する場合、個人情報の取り扱いに関する契約(秘密保持契約・業務委託契約)を必ず締結してください。
チェックすべき主なポイントは以下の通りです。
- 個人データの取り扱い範囲が契約に明記されているか
- 委託先がデータを第三者に提供しないことが担保されているか
- 情報漏えいが起きた際の責任の所在が明確か
- データの廃棄・削除のルールが定められているか
やってはいけないNG行為
産業保健師として実務に関わる際に、絶対に避けるべき行為をまとめます。
| NG行為 | 理由 |
|---|---|
| 本人同意なく結果を上司・人事に伝える | 法律違反・信頼失墜につながる |
| 「○○さんは高ストレスだった」と口頭で漏らす | 守秘義務違反 |
| 10人未満の部署の集団分析を提供する | 個人特定のリスクがある |
| ストレスチェック結果を理由に不利益な人事異動を行う | 法律で明確に禁止されている |
| 受検しなかった社員を不利益に扱う | 受検は労働者の権利であり強制不可 |
特に「受検しないことを理由とした不利益取り扱い」は法律で禁止されています。未受検者への対応は、あくまで任意の受検を促す形にとどめましょう。
よくある疑問Q&A
まとめ|【産業保健師向け】ストレスチェックの流れと注意点
ストレスチェックの実施にあたって、押さえておくべきポイントを振り返ります。
- ストレスチェックは50人以上の事業所で年1回の義務(50人未満は今後義務になる)
- 準備段階から実施者・事務従事者・基準・体制を明確にしておくことが重要
- 高ストレス者の選定基準は事前に設定し、面接指導は本人希望が前提
- 集団分析は10人以上の単位で行い、職場改善につなげる
- 結果は5年間保存が義務
- 個人情報は非常にセンシティブ。本人同意なく会社への提供は禁止
- 10人未満の集団分析の提供はNG
- 受検しないことを理由に不利益な取り扱いをするのは法律違反
産業保健師として、ストレスチェックは「実施して終わり」ではありません。
事後措置・職場改善・フォローアップまで継続して関わることで、職場全体のメンタルヘルス向上に貢献できます。
ぜひ本記事を実務の参考にしてください。
参考資料

