産業保健師は「体力的に楽」「楽しい」「給料が良い」と看護師転職でもかなり人気が高い職業ですが、頑張って勝ち取ったのにいざ働いてみると思っていたのと違ったと早期退職してしまう人も多いです。
その理由は理想と現実のギャップが大きいことが原因です。
求人情報だけではわからない産業保健のリアルな現場の様子を踏まえて、産業保健師が辛いと感じる7つの理由と対処法について解説します。
産業保健師が辛いと感じる7つの理由
産業保健師の仕事をしていて、悩んだり、辛いなと感じたりする場面は主に7つあります。
看護師と違って実習経験が少ないため、人間関係よりも職場環境によるものが多く、解決策もまだ少ないのが現状です。具体的には以下のようなものが挙げられます。
- 実習で経験していないことがほとんどで、わからないことが多すぎる
- 仕事仲間が管理職ばかりで気を遣う
- 個人情報に関わるから、ストレスを吐き出す場がない
- 面談で相手にしてもらえない
- 会社からも相手にしてもらえない
それ以外にも産業保健ならではの特殊な環境が影響しています。
デスクワークが多く、人に接する機会が少ない
産業保健師は8割が事務作業で、資料作成・記録・データ分析・書類整理など個人作業が多く人と接する機会が非常に少ないです。
黙々と作業を続けるため楽しさを感じる場面は少なく、人とのコミュニケーションを取るのが好きな人はつまらないと感じてしまうかもしれません。
健康教育や健康相談などに注力したい人は物足りなさを感じます。
直接的なやりがいを感じにくく、成果が見えづらい仕事の難しさ
産業保健師は従業員の健康を守る重要な役割を担っているものの、企業によっては産業保健師の意見が軽視されることがあります。
特に、労災対応や健康対策の場面で産業保健師が適切に関与できない場合、自分の存在意義を疑問視する保健師も少なくありません。
看護師のように対象者が「病気が治った」「体調が良くなった」と実感することがないため、感謝されることも少ないです。
保健師がきちんと介入し予防ができている状態は「何も変わらない日常」であることです。当たり前の良さに気づかれないため、やりがいは感じにくくなってしまいます。
また、事務仕事が多かったり、保健師以外の仕事を依頼されることもあります。「これは保健師でなくても良いのでは?」と思う場面があるとやりがいが減ってしまいます。
実際に勤務して産業保健師のやりがいを感じた場面を以下の記事にまとめています。見えない成果を自分自身で気づくことも大切です。
産業保健師同士の人間関係で悩む
産業保健師は1〜3人体制であることが多く特殊な職場です。1人の場合は人間関係で悩むことは少ないのですが、2〜3名の場合は注意が必要です。
個室に2人、3人となれば人間関係が悪いと一日中苦痛を感じますし、いじめやトラブルが起きた場合、上司からも見えにくく対応しきれないことが多いです。
3人の場合は2対1の構造が出来上がり、1人で孤立してしまうと支え合う人がいなくなってしまいます。これは産業保健特有の問題です。
それ以外にも、真面目にスキルアップしたいと考えている人もいれば、楽できそうだからと転職した人もいます。これは人それぞれ軸が違うので、どの職場でも良くある話です。
社内で孤立しやすく保健師一人にかかる負担が大きい
産業保健師は多くの場合、一つの企業に1〜2人配置とかなり少なく、唯一の医療従事者として働いています。
そのため他の部署の同僚とは異なる孤独感や、従業員全員の健康管理を一人で引き受ける重圧を感じやすいです。医療従事者としての意見が他の同僚や上司に十分に理解されないことがあります。
・例外が起こった時にどう対処すべきなのか?
・誰に協力を依頼したら良いのか? など
産業保健スタッフ間で協力体制ができていれば解決しやすいですが、相談者がおらず、一人で答えを出さなければいけないと思っていたり、会社の体制が整っていないと一人で抱えることになります。
また、医療従事者としてのニュアンスが伝わらず、孤独感を覚えることもあります。このような環境では、他部署との連携やコミュニケーションが鍵となります。
さらにメンタルヘルスの対応は、従業員の精神的ケアをしながら、自分自身のメンタルも保つ必要があるため、大きなプレッシャーを抱えることが多いです。
引き継ぎなし・マニュアル不備と業務の不透明さが引き起こす不安
産業保健師の業務は多岐にわたり、その範囲が明確でないことが多いです。業務内容もやり方も企業によって様々で正解がないことが解決できない原因としてあります。
教育体制も整っておらず、看護学生の授業も薄く学ぶ程度です。健康診断の事後措置、ストレスチェック、産業医面談・・・と項目は大体決まっていますが詳細な手順は人それぞれ。
特に1年目の保健師は「どのように仕事を進めればいいか」が分からず、困惑することが多いです。
また、目に見える形での成果が出にくいため、自己評価や上司からの評価が低く感じられることもあります。
具体的に健康診断の事後措置で悩む場面として以下のようなものがあります。
- 健康診断の再検査受診勧奨は一人ずつ面談する?書類を作成して送る?
- 社内を回って呼び出すの?管理職に日程調整してもらう?
- 少し悪い人でも勧奨する?
- もし、再検査に行ってくれない人はどうしたらいいの?
- 管理職も治療の必要性を感じていない場合はどうすればいいの?
マニュアルがないと介入の線引きが難しかったり、滞ってしまったときの対処方法がわからず、悩むことが多いです。
会社の協力が得られず、産業保健師の存在意義に悩む
健康管理に対する価値観が会社の方針とずれていて、思うような保健活動ができていないことがあります。
産業保健師は医療従事者である一方、企業文化にも適応しなければなりません。
特に、企業側が「利益優先」で健康管理が後回しにされる場合、産業保健師が提供するメンタルヘルス対策や健康指導が十分に理解されず、不満を感じることがあります。
実際に業務で相手にしてもらえないケースには、このようなものがあります。
- 再検査結果の回収を管理職に依頼しても提出がない。
- ストレスチェックの実施率が低いが、管理職が従業員に呼びかけをしてくれない。
- 休職者が出ても連絡がなく、2週間後の復帰時に産業医面談をしてくれと言われて発覚。
- 長期入院をして勝手に管理職が職場復帰させている。
- メンタル対応は管理職が手に負えなくなってから保健師に引き渡される。
ワクワクしながら入社して、この現実を見るとショックですね。
給料が低い、または待遇に不満がある
産業保健師の平均年収は300〜800万円と幅が大きく、企業によって異なります。派遣、契約社員、正社員など待遇面でも差が出ます。
都心部や地方、企業の規模や業界によっても格差があり、同じ業務をしていても給料に差が出てしまうのが現状です。場合によっては看護師よりも低くなることがあります。
また、紹介予定派遣でいずれ正社員等用の可能性ありと記載されていても、正社員への移行がなく、痺れを切らして退職するケースもあります。
未経験可の求人は基本的に年収が低く、経験やスキルを身につけながら、産業保健師間での転職をする人は非常に多いです。
実は、現役もみんな「いつか好条件求人が出ないか」と待っている…
産業保健師が辛いと感じた時の対処法
産業保健師をしていて辛いと感じた時の対処法は3つの流れで対処できるかを検討します。
「今すぐできる解決方法があるか」
「他の企業の産業保健師へ転職する」
「保健師資格がなくても働ける別の仕事をする」
まずは、私が実際に現場で悩んだ時の解決策を以下にまとめました。
・保健師コミュニティやさんぽセンターを活用する
・専門知識を身につけ、信頼性を得る
・有給休暇を使ってストレス発散する
・まずは管理職から介入する
・退職を検討する
保健師コミュニティに参加する、さんぽセンターに問い合わせする
最近では、産業保健スタッフが集まるコミュニティが増えてきています。
XやInstagramなどSNSで盛り上がり、それぞれ保健師が抱える悩みを持ち合わせて話し合う機会を設けてくれるなど賑やかです。
保健師だけでなく産業医も参加しており、専門的な勉強もできるのでスキルアップになります。
また、業務で行き詰まった場合はさんぽセンターに問い合わせるのもひとつの手です。
産業保健総合支援センターのこと。各都道府県に設置。主に中小企業の産業保健業務を支援しています。保健師向け研修も無料で開催しているので活用してください。
参考:各都道府県の設置場所
事業所に産業医がいない場合の産業医面談や労基への書類提出についてなど産業保健業務でわからないことはここへ聞くと丁寧に教えてくれます。
産業保健専門家制度や産業カウンセラーなど資格取得をしてスキルアップするのもおすすめです。
無料で受けられる研修がたくさんあるので、以下の記事を参考に参加してみてください!
医療知識を身につけ、信頼される人になる
良い職場環境を作るには、まずは年上の方や管理職に信頼してもらうことです。
管理職=偉い人、といっても医療の知識はほぼ皆無です。自分の役割をきちんと果たし、頼られる人になると働きやすくなります。
専門職の立場として、企業に役立つことはたくさんできるはずです。実際に管理職から保健師に質問があったものを紹介します。
・血圧ってどうやって測るの?
・血圧がどれくらい高いとやばいの?
・脳梗塞はストレスでなることもあるの?
このように、看護師としては基本的なレベルであっても一般の人はわからない事が多いです。
保健師になって驚くケースの例として、Hb6.0で仕事を続けている人は結構います。これは結構ヤバイ状態で臨床では輸血するレベル。
そのヤバさを知らずに働いている人や働かせている会社に対して、専門的な知識を用いて病気や病気による事故を防ぐ方法をお伝えすると、保健師への信頼性も高まります。
産業保健の知識や保健指導テクニックを学びたい方は、こちらの記事を参考にしてください。
有給休暇を使用し、愚痴る以外のストレス発散をする
産業保健師は個人のシビアな悩みに介入したり、社内の個人情報を一人で守っていたりと制限があります。
そのため愚痴りたくても相談先がなく、悶々として過ごすことになり、ストレスが溜まりやすいです。
しかしストレス発散方法は様々です。食事・睡眠・温泉・サウナ・ショッピング・トレーニングジム・散歩など、愚痴ること以外で発散しましょう。
産業保健師は有休が使いやすいのも大きなメリットです。前日までの申請でゆっくり休むことができるのでリフレッシュする時間を確保しましょう。
根本的な問題解決は人事・労務課と連携を取りながら地道に解決策を練っていきます!
まずは管理職からヘルスリテラシーを高める
最近、社会的にも「健康経営」という言葉をよく耳にするようになりました。
「健康経営」とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。企業理念に基づき、従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待されます。(引用:経済産業省ホームページ)
従業員が健康でいることは、個人のパフォーマンス向上や生産性を上げることになるということを、まずは管理職に伝えていくことが重要です。
一人倒れてしまうだけでもかなりマイナス。その一人分を補うのに他従業員にも負担がかかり、業績が下がる可能性もあります。
「健康」だけでなく「会社」としての損益という視点で伝えると理解してもらいやすいです。
トップダウンで進めていくと組織全体が変わりやすいです!組織を上手く動かしていくのも保健師の仕事です。
積極的にコミュニケーションをとり、企画を提案する
孤立感を軽減するために、従業員や上司と積極的にコミュニケーションを取ることが重要です。
産業保健師は与えられた仕事だけでなく、保健師としてどのように行動していきたいのかを明確にし、上司へ伝えていくことも重要です。
直属の上司や人事労務、健康管理担当者と定期的に打合せをしてコミュニケーションをとる機会を作りましょう。
保健師が企画し保健事業を提案することで自分のやりがいにも繋がります。
また、複数名体制で人間関係がうまくいかない場合は、産業保健スタッフ同士での意見交換の場を設けることで、方向性を合わせることも重要です。
社内行事への参加や日常的な会話を通じて、産業保健師としての役割を認知してもらうことも良い対策ですね。
産業医や上司の協力を得る
特に組織内での発言力が弱いと感じる場合は、産業医の力を借りて意見を伝えることが有効です。
・受診勧奨しても受診してもらえない。
・従業員が通院中にも関わらず、治療が上手くいっていない。
・就業中に倒れるリスクがあるのに対し、従業員や会社の危機感がない。
また、書面で記録を残し、意思疎通を明確にすることも重要です。
産業医からの意見は保健師よりも効果があり、対象者が危機感を感じることですぐに対応してもらえる可能性が高いです。
頑張っても解決できない時は、退職・転職を検討する!
今すぐ対処できるものもあれば、保健師がどんなに頑張っても解決できない問題もあります。
一人の負担が重い、そもそも社風が合わない、何度上司に伝えても業務改善がされないなど、どうしても解決できない場合は退職を前向きに検討してみましょう。
・職場の労働環境が悪すぎる
・精神的・身体的に辛く体調が悪い
・やりがいや充実感を感じられない
・他に挑戦したいことがある
・いじめがある
・パワハラやセクハラがある
・契約時と待遇が異なる
・給料が少なすぎる
産業保健師を辞める場合の選択肢としては、別の企業に転職、行政や学校へ転職、看護師へ戻る、医療以外の異なる業界へ行くケースがあります。
産業保健師が辛い!辞めたいと感じる理由と今スグできる解決策まとめ
産業保健師は、企業内で従業員の健康を守る重要な役割を果たしている一方、孤立感や企業文化とのギャップ、精神的負担など多くの課題を抱えています。
これらの課題に対処するためには、積極的なコミュニケーション、業務の進め方の工夫、そして適切なサポートを受けることが必要です。
また、企業によっても働きやすさが全然違います。すぐに問題が解決できない場合は、転職を検討しても良いでしょう。
無理のないように頑張れる部分は耐えて、自分がダメになりそうなら転職を考えるでも良いと思います。大切なことはどのように対処すれば解決できるのかを考えて行動することです。