企業の保健師は大きく分けて3つのパターン「企業専属」「健康保険組合」「業務委託会社」があります。
なかでも企業と健保は区別がつきにくく、転職活動時にどちらを選んだら良いのか悩むこともあります。
結論から言うと、一般的に言う産業保健師は「企業専属保健師」です。
健康保険組合保健師との大きな違いは法的根拠や保健活動の目的です。この違いをあらかじめ理解しておくと転職後のミスマッチを防ぐことができます。
本記事では、求人を見ただけではわからない企業専属と健康保険組合の保健師の違いについて徹底解説していきます。

ちなみに、「企業専属保健師」と「業務委託会社保健師」の違いはこちらの記事で解説しています。参考にしてください。

「企業」と「健康保険組合」保健師の違いを比較
「企業」と「健保」の違いは法的根拠と活動目的が大きく異なります。それ以外に、所属先や業務内容が変わります。
企業 | 健保 | |
---|---|---|
所属 | 人事労務部 安全衛生部門 | 健康保険組合 |
活動目的 | 安心・安全に働くため | 健康増進 医療費削減 |
法律 | 労働安全衛生法 | 健康増進法 |
業務内容 | ・健康診断実施 ・メンタルヘルス ・職場復帰支援 ・産業医面談調整 ・職場巡視 | ・禁煙対策 ・がん検診 ・重症化予防 ・肥満予防 ・特定保健指導 実施義務 |
給料 | 企業の収益 | 従業員の保険料 |
企業 | 健保 | |
---|---|---|
所属 | 人事労務部 安全衛生部門 | 健康保険組合 |
活動目的 | 安心・安全に働くため | 健康増進 医療費削減 |
法律 | 労働安全衛生法 | 健康増進法 |
業務内容 | ・健康診断実施 ・メンタルヘルス ・職場復帰支援 ・産業医面談調整 ・職場巡視 | ・禁煙対策 ・がん検診 ・重症化予防 ・肥満予防 ・特定保健指導 実施義務 |
給料 | 企業の収益 | 従業員の保険料 |
項目ごとに詳しく解説していきますが、企業によっては線引きが曖昧になっているので、面接時に確認しましょう。
所属(組織体制)の違い

まず、所属先が異なります。大企業は単独で健康保険組合を持っていることもあり、混乱しがちなので社名に注意しましょう。
健保:〇〇グループ健康保険組合
企業:〇〇株式会社
これから転職活動を始める方は、求人票に記載されている社名を確認してください。
企業に保健師の配置がなく、健保保健師が企業保健師の役割をしている場合もあります。
法的根拠と保健活動目的の違い

次に、保健活動を行う上での法的根拠や保健活動の目的が違います。ここは大きなポイントで、今後の活動にも影響してくる部分なので必ず押さえておきましょう。
「健康保険組合」は、医療費削減や個人の健康増進のために健康予防活動を行います。
一方で「企業保健師」は、従業員が安心・安全に働けるように職場環境を整えるために産業保健活動を行います。その一部に健康予防活動が含まれています。

企業保健師は、労働衛生5管理のキホンをおさらいしておきましょう。
一般的な産業保健活動は企業保健師のことを指します。
しかし、この違いを理解していない転職エージェントもいるので、産業保健師の求人として紹介されることも多いです。十分に注意してください。
業務内容(保健活動)の違い

法的根拠や目的が違えば、もちろん業務内容も異なります。それぞれの業務内容に対する目的を簡単に解説しています。
〈健保保健師〉
禁煙対策 | 喫煙者の削減、喫煙による様々な疾患の発症を防ぐ。 |
がん検診 | 早期発見・早期治療を行い、重症化を防ぐ。 |
重症化予防 | 生活習慣病のリスクを減らす。 |
肥満予防 | 肥満による生活習慣病を防ぐ。 |
特定保健指導実施 | メタボやメタボ予備軍に対して悪い生活習慣による疾患の発症を防ぐ。 |
〈企業保健師〉
健康診断の実施 | 就業可能な状態であるか確認する。 |
メンタルヘルス | パワハラ、長時間労働等による精神疾患を防ぐ。 |
職場復帰支援 | 持病を持つ従業員が安全に安心して働ける環境を作る。 |
産業医面談調整 | 産業医による指導や就業可否の判断を依頼する。 |
職場巡視 | 職場環境を巡回し、労働災害の発生を防ぐ。 |
企業保健師が「特定保健指導」や「重症化予防」を行なっていることも多いですが、これは労働災害が起こらないように未然に防ぐためであったり、就業中に意識消失や突然死を防ぐためです。
また、「禁煙対策」「がん検診」「特定保健指導の実施」は健保から依頼されて現場の企業保健師が実施しています。従業員の呼びかけや手続き方法などの紹介を健保保健師の代わりに行なっています。
※業務内容も企業によって線引きが曖昧になっていることがあります。
給料の出所の違い

所属先が異なれば、給料の支払い元がそれぞれ異なります。しかし、どちらも経営が厳しくなると給料が削減されてしまいます。
近年、大企業の健康保険組合でも赤字が続き、破綻するケースもあります。このように報道されることも多いので、最新の時事問題はチェックしておきましょう。

「企業」と「健康保険組合」、どっちを選ぶ?

ここまで組織形態や業務内容・目的について解説しましたが、結局どちらが良いのか?という点について、どちらも経験したことがあるので、実際に働いてみた視点でお伝えします。
【健康保険組合】保健師の特徴
・事務仕事が多い
・従業員と関わる機会は少ない
・様々な保健事業を展開する
健康保険組合は保健師がいなくても成り立つのがポイントです!実際に保健師が在籍していない企業もあります。
全体的に事務仕事が多いのが特徴です。
従業員とコミュニケーションを多く取りたいという人は、やりがいを感じることが少なく、なにか物足りなく感じてしまいます。反対に、データ分析が得意な人や黙々と作業がしたい人は向いています。
また、独自で様々な保健事業を展開できるため、企画するのが好きな人や新しい取り組みがしたい人は楽しむことができます。
【企業】産業保健師の特徴
・従業員に寄り添える
・従業員との面談の機会が多い
・健保から依頼された業務も行う
一般的に産業保健師と呼ばれるのは「企業専属保健師」のことです。
健康保険組合の保健師とは異なり、現場で働くため従業員と接する機会が多いです。
職場巡視・巡回や面談回数も多いので従業員と仲良くなることが多く、現場や従業員に寄り添った保健活動ができます。
また、健康保険組合から依頼された業務も行うので、個人への対応をしながら、職場全体への対応も行うなど忙しくはありますが、産業保健全般に興味がある人におすすめです。
【産業保健師】企業と健康保険組合の比較まとめ
今回は初心者のために企業産業保健師と健康保険組合保健師の違いを解説しました。
この違いを理解しておくと、正しい方向で保健活動ができ、個人や組織へ良い影響を与える保健師になることができ、どちらに所属してもやりがいを感じられるようになります。
これから転職活動を始める人は、ぜひ参考にしてくださいね。企業、健保どちらの求人も以下の転職サイトに掲載されています。
