産業保健師といえば企業に所属し、従業員の健康管理を行うのが主流ですが、近年、中小企業へ向けた産業保健活動も広まり、中小企業へ出向く業務委託会社も増えてきました。
産業保健師の求人の中でも、業務委託会社の数が増加し、未経験で産業保健の経験を積める機会も増えました。
しかし、企業専属の保健師とは環境が異なり、入社後に「こんなつもりじゃなかった…」と落胆する人もいます。
このように転職で失敗しないように、業務委託会社と企業専属の保健師の違いを解説しました。今後の職場選びの参考にしてください。
業務委託会社と企業専属保健師のちがい
産業保健師には、企業側が雇用する産業保健師と業務委託会社が雇用する産業保健師の2種類あります。
大きな違いは、企業専属は所属している企業の従業員や組織に対して産業保健活動を行います。
業務委託会社は、業務委託会社に所属し、会社が契約している企業(主に中小企業)へ定期的に訪問し産業保健活動を行います。
それぞれにメリット・デメリットがあるので詳しく解説します。
【業務委託会社】産業保健師のメリット
・さまざまな企業に携わることで視野が広くなる
・未経験でも産業保健師になれる可能性が高い
・複数名保健師が在籍していて安心
・ベンチャー企業が多く、ビジネスが学べる
様々な企業に携わることで、視野が広くなる
契約している企業へ複数掛け持ちをすることもあります。
企業の風土や理念を理解し、それに則って産業保健活動をしていくので、契約先毎に業務内容や取り組み方もバラバラです。
臨機応変な対応が必要で大変なところはありますが、その分視野が広くなり、柔軟な対応ができるようになります。
産業保健の本質が学べるのは非常に大きなメリットで、未経験のうちに理解しておくとどのような企業に行っても通用する産業保健の知識やスキルが身につきます。
未経験でも産業保健師になれる可能性が高い
業務委託会社は未経験可の求人も多く、社内研修が充実しています。
産業医や他保健師も在籍しているので、企業専属保健師に比べてサポート体制が強いです。
産業保健師の未経験の大きな壁を突破できるので、産業保健経験を積みたい人が転職先として選ぶことが多いです。
複数名保健師が在籍していて安心
業務委託会社には複数の保健師が在籍しており、日々の活動で困ったときに相談できる先輩がいるのは精神的にも安心できます。
企業専属は一人職場も多く、マニュアルがなかったり、引き継ぎ期間がなかったりと困ることが多々あります。
困ったときに気軽に相談できる仲間がいるのは働く上で大変心強いです。
ベンチャー企業が多く、ビジネスが学べる
業務委託会社はここ数年で広がってきており、ベンチャー企業が多いです。
これからの企業成長のために、保健師の仕事だけでなく法人営業に付いていくことも多々あります。
病院看護師で働いていた人は、これまでとは180度変わり、数字が求められる厳しい世界に入ることになります。
社長との関係性も近く、会社の成り立ちや企業成長を間近で感じられるため、ビジネスを学べる機会が多いです。
起業保健師を検討している人には絶好のチャンスです。
【業務委託会社】産業保健師のデメリット
・企業への訪問日は勤務先が異なる
・訪問日が少なく、慣れるのに時間がかかる
・長く関わることができない可能性がある
・契約解除を懸念して自由に動けない
・現場の産業保健体制が整っていない
・保健師以外の仕事、法人営業をすることもある
企業への訪問日は勤務先が異なる
業務委託会社の産業保健師は、週に数回、契約先へ訪問し、保健指導や面談を行います。
そのため勤務先が毎回異なるので通勤時間など考慮する必要が出てきます。
現場が遠いと早めに出勤するなどの調整が必要で、子育て世代には大きな負担がかかる可能性があります。
訪問日が少なく、慣れるのに時間がかかる
契約先への訪問日が少ないため、完全アウェイな状態で慣れるのに時間がかかってしまいます。
慣れるまでに変に気を遣うこともあり、本来の産業保健活動に集中できないと感じる人もいます。
人見知りや内向的な人は、ひどく疲れてしまうためあまり向いていません。
反対に企業専属であれば、毎日職場の人と顔を合わせて、顔見知りになる機会も多いため、負担なく仕事に取り組め、自分の力を発揮することができます。
長く関わることができない可能性がある
業務委託会社は、契約が解除されたら関わることができません。
慣れてきた職場や大切にしている契約先が契約解除となるのは非常に寂しいです。さらに「これでよかったのだろうか」と反省する点も多く出てきます。
反対に、より良い産業保健が提供できれば長く契約が続くので、自分の力量次第なところがあります。
企業専属は、基本的に解雇とならない限り従業員や組織に関わることができるので、長い年月をかけて活動ができるのでやりがいを感じることも大きいです。
しかし、企業の業績が下がれば解雇となる可能性はゼロではないので、頭の片隅にでも入れておいてください。
契約解除を懸念して自由に動けない
産業保健活動では、思い通りにいかないことの方が多いです。
例えば、健康診断の二次検査を受けない従業員がいた場合、受診勧奨をします。その際、周りのスタッフへも協力を依頼したり、本人へ強く受診勧奨したりと半ば強制的に依頼することもあります。
従業員の安全のために介入していても、迷惑・おせっかいだと感じ取られることも多く、これが契約解除につながるのではないかと懸念し保健活動に制限がかかることがあります。
常に契約解除と隣り合わせの状況では、必要な業務もブレーキをかけてしまい思うような活動ができないもどかしさを感じてしまいます。
現場の産業保健体制が整っていない
業務委託会社の契約先は、中小企業が多く、産業保健を取り入れていない企業が多いです。
そのため、産業保健師が介入するのはほぼ立ち上げ業務のような環境です。
・健康診断の記録がない
・必要書類のフォーマットがない
・マニュアルがない
・記録媒体がない
このように最初から立ち上げ業務を一人で行わなければなりません。未経験で教育体制が整っているとはいえ、業務負担は大きいと考えられます。
保健師以外の仕事、法人営業をすることもある
ベンチャー企業は、第一に契約先を増やすために法人営業を重視しています。
訪問先が1〜2社のみの場合、空いた時間は法人営業を営業部門と同行して行うことがあります。
医療の世界で生きてきた看護師・保健師が営業をゼロから学ぶには大きな負担となります。
さらにこれまでは利益目的で働いてこなかったからこそ、心が痛むような場面も多く、合わない人にとっては辛いと感じることが多いです。
【企業専属】産業保健師のメリット
・企業に愛着が湧く
・企業成長を一緒に喜べる
・産業保健体制が整っている
・自由に産業保健活動ができる
企業に愛着が湧く
企業専属の保健師は、自分が退職しない限り従業員や組織に関わることができます。
例えば、糖尿病でHbA1c10%以上でも通院拒否をしている人に対し、数年かけて関わりもうダメだと諦めかけていた時、突然何を思ったのか、通院を再開してくれることもあります。
すぐに解決しない困難事例は試行錯誤し、関わり続けることで解決に至ることが多く、その達成感は非常に大きいです。
また、業務委託会社とは異なり、毎日社内で従業員と顔を合わせたり、業務連絡をしたり、ときには休憩中に雑談することも多く、従業員との関係性が深まるため企業に対する愛着が湧いてきます。
こんなにみんな頑張っているんだから、健康面からしっかり支えよう!とモチベーションも上がりますね。
企業成長を一緒に喜べる
身近で従業員の頑張りを見ているため、企業成長を応援したくなる気持ちが湧いてきます。
例えば、従業員の面談をする際に新しい企画の仕事の悩みを聞くこともあり、その企画が成功した時や大きなニュースとして取り上げられていた時は感慨深いものがあります。
あのとき、あの人が残業しながら苦労していたものが、世の中に出てる!と思うと感動しますね。
産業保健体制が整っている
最近では産業保健師を配置する企業が増え、オープニングスタッフの募集もありますが、基本的に求人は「産業保健師の増員」や「人員削減」が多いです。
元々の産業保健体制が整っているので、それを引き継ぐことが多く、産業保健のベースがあることが強みです。
引き継ぎがない、マニュアルがない、など困るケースもありますが、全くのゼロから立ち上げるより負担は少ないです。
周りのスタッフ(上司や人事、産業医など)は理解していることが多いので、比較的やりやすいです。
自由に産業保健活動ができる
社内情報をキャッチしやすい環境にあるので、産業保健活動の幅も広がります。
産業保健活動は保健師一人ではできません。周りの産業保健スタッフや管理層を巻き込み、組織を動かしていかなければなりません。
誰に何を依頼すればこの活動が上手くいくのか、社内事情に詳しいからこそ様々な手段を見つけることができ、実行しやすくなります。
変数部分が大きく自由度の高い産業保健活動を楽しみたい人は、企業専属の産業保健師が向いています。
【企業専属】産業保健師のデメリット
・未経験の壁が大きい
・固定概念にとらわれ、視野が狭くなる
・産業保健師仲間が少なく、相談先がない
未経験の壁が大きい
企業専属の保健師は、主に大企業に配置されます。各事業所に1〜2名と保健師の数が少なく、業務を教える人がいないため産業保健経験者を求める傾向にあります。
また、複数名体制であっても本社や地方都市に多く、地域によっても偏りがあるため未経験の壁が非常に高いです。
固定概念にとらわれ、視野が狭くなる
一つの企業で長く働いていると、今やっている活動が正しいという固定概念にとらわれてしまいます。
つまづいた時に解決策がなく、ストレスに感じる保健師は非常に多いです。
そのため産業保健は企業の数だけやり方があり、様々な取り組みを知ることでより良い活動ができる成長に繋がります。
保健師交流会や学会で産業保健師仲間を増やすなど、同業者の横の繋がりを持つようにするのが理想的です。
産業保健師仲間が少なく、相談先がない
産業保健師は企業に1〜2名であり、困難事例があった場合相談できる人が少ないです。
他企業の産業保健師と繋がりがあっても、個人情報を扱っているため内部事情や対象者の詳しい情報まで相談することができません。
一人で抱え込んでしまい、うつ状態に陥ってしまう保健師も少なくありません。
社内の相談先が産業医、人事や健康管理担当者になりますが、会社側が協力的でないと対応してくれないことも多く、非常にやりづらいケースも多発しています。
自分で判断し、行動していく自立性が求められる職業です。
どっちの保健師に向いている?就職先選びのポイント
業務委託会社は、幅広い知識を取り入れたり、人と交流するのが好きな人に向いています。
・未経験で最初はバリバリ働いて実力をつけたい
・教育体制が整っているところで働きたい
・保健師以外のビジネスも学びたい
・いろんな人と関わるのが好き
・従業員や組織へ長く関わりたい
・安定した産業保健活動がしたい
・信頼関係を築き上げ、企業成長を共に喜びたい
産業保健師求人を取り扱っている転職サイトは以下の記事にまとめています。これらの情報をもとに、ぜひ転職活動に活かしてください。