保健指導をしていて、こんな経験ありませんか?
「血圧が下がれば、脳梗塞などの病気を防げますよ」
正しい情報を、丁寧に伝えたはずなんですよね。なのに対象者の反応は薄くて、「はぁ、そうなんですね」で終わってしまう。
私も新人の頃はこのパターンにハマって、正直かなり悩みました。
実はこれ、伝え方をほんの少し変えるだけで対象者の反応がガラッと変わることがあるんです。
ポイントは、医学的な「メリット」を、その人の生活に結びつく「ベネフィット」に変換すること。
専門用語っぽく聞こえるかもしれませんが、難しい話ではありません。
この記事では、私が現場で試行錯誤しながらつかんだ、保健指導の伝え方のコツを実例つきでお伝えします。
明日からの面談で、そのまま使えるフレーズも紹介するので、ぜひ最後まで読んでみてください。
メリットとベネフィットの違いとは
メリットとベネフィットの違いとは
保健指導の場面でよく使う「メリット」という言葉、実はベネフィットとは別物なんですよね。私も恥ずかしながら、産業保健師になりたての頃はこの違いをちゃんと理解していませんでした。

メリットというのは、いわば「事実」や「特徴」のことです。「血圧が下がる」「脂質異常が改善する」「脳梗塞のリスクが下がる」これらはすべて医学的に正しいメリットですよね。でも、これだけを伝えても対象者の心にはあまり刺さらないんです。
一方でベネフィットは、そのメリットの先にある「対象者にとっての価値」のことを指します。血圧が下がった先に何があるのか、その人の生活や人生にどう関わってくるのか。ここまで踏み込んで初めて、対象者は「自分ごと」として受け止めてくれるんですよね。

あなたも保健指導で、正しい情報を伝えているはずなのに反応が薄いと感じたこと、ありませんか?それ、もしかしたらメリットどまりで終わっているサインかもしれません。
実際、私が特定保健指導を担当していたときのことです。
60代の男性に「血圧を下げないと脳梗塞のリスクが上がりますよ」と伝えても、「まあ、そのうちね」という反応で終わってしまったことがありました。でも同じ内容を「血圧が安定したら、来年のお孫さんの運動会も一緒に走れますよ」と言い換えた瞬間、その方の表情がふっと変わったんです。「それは困るな、頑張らないと」って、笑いながら言ってくれました。
具体的に並べてみると、こんな違いになります。
| メリット | その先にある価値 |
|---|---|
| 血圧が下がる | 孫の成長を見届けられる |
| 脂質以上が改善する | 定年後も好きな山登りを続けられる |
| 体重が減る | 孫を抱っこできる体でいられる |
| 血糖値が安定する | 旅行先で好きなものを気兼ねなく食べられる |
こうして並べてみると、同じ医学的事実でも伝え方ひとつで対象者の受け取り方がまったく違うのが分かると思います。
次は、なぜ保健指導でここまでベネフィットが重要になるのか、その理由を掘り下げてみますね。
なぜ保健指導ではベネフィットが重要なのか
正直に言うと、私は最初「正しい医学知識を伝えれば、対象者はちゃんと行動してくれるはず」と思い込んでいました。看護学生の頃からそう教わってきましたし、疑ったこともなかったんですよね。
でも現場に出てみると、そう単純にはいかないと痛感させられました。
数値や病名を並べて説明しても、対象者の表情が変わらないことのほうが多かったんです。

「分かってはいるんですけどね」と苦笑いされて終わる面談、あなたも経験したことありませんか?
これにはちゃんと理由があります。人が行動を変えるときに動くのは、知識ではなく感情や実感なんですよね。
ヘルスビリーフモデルという行動科学の考え方でも、人は「自分にとって重要だ」と感じられて初めて健康行動を取りやすくなるとされています。つまり、脳梗塞のリスクという抽象的な情報だけでは、対象者の「自分にとって重要だ」というスイッチは入りにくいんです。
ここで効いてくるのがベネフィットです。ベネフィットは対象者自身の生活や大切な人との時間に直結する話なので、他人事だった医学情報が一気に「自分の人生の話」に変わります。私はこれを実感してから、面談の組み立て方がガラッと変わりました。

ある40代の女性への指導では、「高血圧のままだと脳卒中や心疾患になるリスクがあります」と伝えても反応が薄かったのですが、「お子さんの成人式や結婚式、元気な姿で出席したいですよね」と付け加えた途端、急に前のめりになって質問してくれるようになったんです。数値の話をしていたはずなのに、いつのまにか「自分の未来の話」として聞いてくれていました。
保健指導がなかなか響かないと感じるときは、情報の正確さよりも先に、こんな点を振り返ってみるのもいいかもしれません。
・その情報は対象者にとって「自分ごと」になっているか
・数値や病名の説明で終わっていないか
・対象者が大切にしているもの(家族・趣味・仕事など)に触れられているか
ちなみに、対象者がどのくらい行動を変える準備ができているかによっても、響く伝え方は変わってきます。保健指導で行動変容ステージを見極める質問5選もあわせて読んでみると、今回のベネフィットの伝え方がより活かしやすくなると思います。
次は、実際にメリットをベネフィットに変換していくための具体的なステップを紹介していきますね。
メリットをベネフィットに変換する3つのステップ
「言いたいことは分かったけど、実際どうやってベネフィットを作ればいいの?」って思いませんか?私も最初はここでかなり手が止まりました。頭では理解できても、いざ面談で言葉にしようとすると出てこなかったんですよね。
試行錯誤しながら自分なりに整理してみたら、意外とシンプルな3つのステップに落ち着きました。順番に紹介していきます。

ステップ1. 対象者の生活・価値観をヒアリングする
いきなり指導に入るのではなく、まずはその人が何を大切にしているかを聞くところから始めます。
家族のこと、趣味のこと、仕事の目標のこと。雑談っぽく聞こえるかもしれませんが、これがベネフィットの材料になるんです。
私は面談の冒頭で「最近楽しみにしていることってありますか?」と聞くようにしています。この一言だけで、その後の指導がびっくりするほど組み立てやすくなるんですよ。
ステップ2. 医学的メリットを「その人の生活のどんな場面」に変換するか考える
ヒアリングした内容と、伝えたい医学的メリットを頭の中で掛け合わせてみます。
「血圧が下がる」というメリットは、孫が好きな人には「孫と公園で遊べる体でいられる」に変わりますし、旅行好きな人には「旅先で倒れる心配をせずに楽しめる」に変わりますよね。
同じメリットでも、相手によってベネフィットの形は変わってきます。ここが保健指導の面白いところだと、私は思っています。
ステップ3. 具体的な情景が浮かぶ言葉で伝える
最後は、抽象的な言葉を避けて情景が目に浮かぶ表現にする工程です。
「健康になれますよ」ではなく「来年の運動会で孫と一緒に走れますよ」のように、映像として想像できる言葉を選んでみてください。
このとき意識しているポイントをまとめると、こんな感じです。
・抽象語(健康・元気・安心)をそのまま使わない
・「いつ」「誰と」「どこで」のどれかを入れる
・対象者自身が発した言葉をできるだけそのまま使う
正直、この3ステップは最初はぎこちなくて、面談中に「えっと…」と詰まったこともありました。でも慣れてくると自然に出てくるようになるので、まずは型として一度試してみてほしいなと思います。
次は、実際に使えるベネフィット変換の言い換え例を一覧にしてまとめてみますね。
保健指導で使える言い換え例集
ここまで考え方を紹介してきましたが、「実際の指導でどう言えばいいの?」というのが一番知りたいところですよね。私も他の保健師さんの実例を知りたくて、いろんな研修や本を読み漁った経験があります。
ここでは、特定保健指導でよく使う項目ごとに、メリットとベネフィットの言い換え例をまとめてみました。そのまま使ってもいいですし、対象者の状況に合わせてアレンジしてもらえたら嬉しいです。
血圧・循環器系の指導
| メリット | その先にある価値 |
|---|---|
| 血圧が下がる | 孫の運動会で一緒に走れる |
| 動脈硬化のリスクが下がる | 定年後も夫婦で旅行を楽しめる |
| 脳梗塞を予防できる | 仕事を最後まで自分のペースでやり切れる |
脂質・血糖値の指導
| メリット | その先にある価値 |
|---|---|
| LDLコレステロールが下がる | 子どもの結婚式に元気な姿で出席できる |
| 血糖値が安定する | 旅行先の食事を気にせず楽しめる |
| 糖尿病の合併症を防げる | 好きな靴を長く履き続けられる |
体重・生活習慣の指導
| メリット | その先にある価値 |
|---|---|
| 体重が減る | 階段の上り下りが楽になり、通勤が苦じゃなくなる |
| 睡眠の質が上がる | 週末に趣味のゴルフを思い切り楽しめる 仕事に集中できるようになる |
こうして並べてみると、ベネフィット側はどれも「その人の生活の一場面」になっているのが分かると思うんですよね。

実は私、この一覧を作った当初は「こんな軽い言い方で大丈夫かな」と少し不安でした。医療者としてちゃんと病気のリスクを伝えなきゃ、という気持ちが強かったからです。
でも実際に使ってみると、対象者から「そう考えると頑張らないとですね」という前向きな一言が返ってくることが増えて、この不安は杞憂だったなと感じています。
あなたの担当している対象者なら、どんなベネフィットに置き換えられそうか、一度想像しながら読んでみてもらえたらと思います。
次は、この言い換えを実際の面談でどう会話に落とし込むか、Before/Afterの形で紹介しますね。
現場で使える伝え方のフレーズ・声かけ例
言い換え例が分かったところで、次は実際の面談でどんな会話の流れになるのか気になりますよね。
私自身、知識として知っていても、面談の緊張感の中でとっさに言葉が出てこなかった時期があったので、その気持ちはよく分かります。
ここでは実際の面談をイメージしながら、Before(メリットのみ)とAfter(ベネフィットを添えた場合)を比べてみますね。
Before
「血圧が高いままだと、脳梗塞や心筋梗塞のリスクが上がります。今のうちに数値を下げておきましょう」
After
「血圧が高いままだと、脳梗塞や心筋梗塞のリスクが上がるんですよね。〇〇さん、お子さんの成人式まであと何年でしたっけ?そのときも元気に会場で見守れる体でいたいですよね」
同じ医学情報を伝えているのに、後者のほうが対象者の頭の中に具体的な場面が浮かびやすいと思いませんか?私は面談の最後にこの一言を添えるだけで、対象者のうなずき方が変わることを何度も経験しました。
もうひとつ、生活習慣の指導での例も紹介します。
Before
「運動不足が続くと、将来的に足腰が弱ってきますよ」
After
「今のうちから少しずつ体を動かしておくと、定年後に始めたいと言っていた家庭菜園も、無理なく続けられると思うんです」
対象者が面談中に話してくれた「やりたいこと」をそのまま拾って返す、というのがポイントなんです。特別なフレーズを覚える必要はなくて、相手が話してくれた言葉を少しアレンジして返すだけでいいんですよね。
ちなみに、ベネフィットの中身は年代によっても変わってきます。ざっくりですが、私はこんなイメージで使い分けています。
| 20〜30代 | 仕事のパフォーマンスや、将来のライフイベント(結婚・出産・住宅購入など) |
|---|---|
| 40〜50代 | 子どもの成長や、親の介護と両立できる体力 |
| 60代以降 | 孫との時間、趣味や旅行を続けられる健康寿命 |
もちろんこれはあくまで傾向で、実際は一人ひとり大切にしているものが違います。だからこそ、前のステップで紹介したヒアリングが効いてくるんですよね。

フレーズを丸暗記するのではなく、対象者の言葉を拾って自分なりの言い換えを作ってみてください。
次は、ベネフィットを伝えるうえで気をつけたい注意点についてお話しします。
注意点・よくある失敗
ここまでベネフィットの伝え方を紹介してきましたが、実はこのやり方、一歩間違えると逆効果になってしまうこともあるんです。私も痛い経験をしたことがあるので、正直にお話ししますね。
押し付けがましくならないように気をつける
ベネフィットを意識しすぎるあまり、「お孫さんのために頑張りましょうよ!」と、こちらから一方的に押し付けてしまったことがありました。
相手からすると「そんなこと言われなくても分かってる」という気持ちになってしまいますよね。
あなたも、誰かに自分の家族を引き合いに出されて説得された経験、あまり気分の良いものではなかったんじゃないでしょうか?
ベネフィットは、あくまで対象者自身の言葉から引き出すのが基本です。

こちらが勝手に「あなたにとっての幸せはこれですよね」と決めつけてしまうと、途端に響かなくなってしまうんですよね。
これは、保健指導の世界でよく言われる「正したい反射」にも近いものがあるんですよね。私も動機付け支援を勉強していたときに、この言葉を知ってハッとしました。
【特定保健指導】動機付け支援の目的と効果的な指導方法でも詳しく触れているので、押し付けにならない伝え方についてさらに知りたい方は読んでみてください。
不安をあおりすぎない
「このままだと孫の顔も見られなくなりますよ」のような、強い不安訴求に寄りすぎるのも要注意です。一時的には効果がありそうに見えても、対象者との信頼関係を崩してしまうことがあります。
実際、以前の同僚がこの言い方をして、対象者から「怖がらせようとしてますよね」と指摘された場面を見たことがありました。

ベネフィットは「怖がらせる」ためではなく、「なりたい未来を思い描いてもらう」ために使うものだと、私は考えています。
その人にとって的外れなベネフィットを選んでしまう
孫がいない人に「お孫さんのために」と言ってしまったり、旅行に興味のない人に旅行の話をしてしまったり。ヒアリングを飛ばしてテンプレート的にベネフィットを当てはめると、こういうズレが起きやすくなります。
失敗しがちなポイントを整理すると、こんな感じです。
・こちらの価値観を一方的に押し付けてしまう
・不安をあおる表現に偏ってしまう
・ヒアリングを省略して決めつけで話してしまう
・毎回同じベネフィットのパターンを使い回してしまう
正直、私も最初はこの失敗を何度も繰り返しました。でも、対象者の反応を見ながら少しずつ言葉を調整していくうちに、自然と的外れなベネフィットは減っていったんですよね。

完璧を目指さなくて大丈夫なので、まずは目の前の対象者をよく観察するところから始めてみてください。
まとめ|相手が行動変容する保健指導での伝え方
ここまで、保健指導の伝え方についてお話ししてきました。最後に、内容を振り返ってみますね。
メリットは「事実」で、ベネフィットは「対象者にとっての価値」。この違いを意識するだけで、面談での対象者の反応が変わることを、私自身何度も実感してきました。
- メリットとベネフィットを分けて考える
- 対象者の生活や価値観をヒアリングしてからベネフィットを作る
- 抽象的な言葉ではなく、情景が浮かぶ言葉で伝える
- 押し付けや不安訴求に偏らないよう、対象者自身の言葉を拾う
これって、実はテクニックというより「相手をよく見る」という、保健師なら誰でも大切にしてきた姿勢の延長線上にあるものなんですよね。
私も最初は難しく考えすぎていましたが、結局のところ「この人にとって何が嬉しいことなんだろう」と想像することの積み重ねなんだと、今は思っています。
明日からすべての面談で完璧にできなくても大丈夫です。まずは1人の対象者を思い浮かべながら、いつものメリットをひとつだけベネフィットに言い換えてみてください。
その小さな変化が、対象者の「自分ごと」を引き出すきっかけになるはずです。
伝え方が変わって対象者の反応が良くなると、面談そのものがどんどん楽しくなっていくはずです。実際、私自身保健師の仕事にやりがいを感じる瞬間が増えたのも、この伝え方を意識するようになってからでした。
この考え方は特定保健指導だけでなく、産業保健師としての日々の面談全般にも応用できます。よかったら、こちらの記事もあわせて読んでみてください。

