私が産業保健師として働き始めた頃、一番最初にぶつかった壁が「健康診断」でした。
看護学生時代は病棟の健康診断しかイメージできず、企業の健康診断がこんなに種類があるなんて正直知らなかったんですよね。
雇い入れ時、定期、特定業務従事者…名前を聞いただけで混乱しませんか?

私も配属されたばかりの頃、上司から「今月は特定業務従事者健康診断の対象者リストを作って」と言われて、頭が真っ白になった経験があります。
この記事では、産業保健師・産業看護師が実務で必ず対応する健康診断5種類を、法的根拠から実務のポイントまでまとめて解説していきます。読み終える頃には、健康診断の全体像がすっきり整理されているはずですよ。
産業保健師が押さえるべき健康診断の基礎知識
健康診断の法的根拠(労働安全衛生法第66条)
健康診断って「会社の福利厚生」くらいに思っている人、意外と多くないですか?私も産業保健師になる前は、そんなイメージを持っていました。
でも実際は違うんです。健康診断は労働安全衛生法第66条第1項で定められている、法律上の制度なんですよね。しかも種類は全部で5種類あります。
法律という言葉だけ聞くと難しそうに感じるかもしれませんが、産業保健師にとってはここが土台になる部分です。
まずはこの根拠を押さえておくと、後の実務がぐっと理解しやすくなりますよ。
事業者の実施義務と労働者の受診義務
健康診断には「実施する側」と「受ける側」、両方に義務があります。ここ、意外と誤解されやすいポイントなんです。
- 事業者(企業側)には実施義務がある
- 労働者には受診義務がある
- 受診拒否に対する罰則規定は安衛法上ない
- ただし業務命令として受診を命じることは可能
- 拒否し続ける場合は懲戒処分の対象になり得る
※厚生労働省「労働安全衛生法に基づく健康診断」ページ参照
私が現場にいたとき、健康診断を「忙しいから」と後回しにする社員さんに何人も出会いました。
そのたびに「法律上の義務なんですよ」と伝えるだけでなく、業務命令として会社側が対応できることも合わせて説明していましたね。
派遣労働者については実施義務者が派遣元事業主になる点も、忘れずに覚えておきたいところです。
健康診断の4つの目的
健康診断は「とりあえずやっておくもの」ではなく、明確な目的を持って実施されています。産業保健師として説明できるようにしておくと、社員さんへの案内もぐっと説得力が増しますよ。
- 生活習慣病を念頭に置いた健康状態の把握
- 作業起因性の健康障害の早期把握
- 結果による適正配置などの事後措置、保健指導
- 職場環境改善
この4つ、正直最初は暗記しようとして苦労したんです。
でも実務を重ねるうちに、社員さんと面談する場面で自然と目的ベースの説明ができるようになっていきました。
あなたも最初は覚えにくく感じるかもしれませんが、実務の中で自然と身についていくので安心してくださいね。
>>参考:イラストでまるわかり!健康診断・保健指導パーフェクトBOOK 検査所見一覧&そのまま使える面談用シートつき (産業保健と看護2019年春季増刊) [ 畑中 純子 ]産業保健師が対応する健康診断5種類の一覧

健康診断の種類と検査項目比較表
「結局、健康診断って何種類あるんだっけ?」
産業保健師になりたての頃、私は何度もこの質問を自分にしていました。覚えることが多くて、正直こんがらがるんですよね。
主に押さえておきたいのは次の5種類です。
・雇い入れ時の健康診断
・定期健康診断
・特定業務従事者の健康診断
・海外派遣労働者の健康診断
・給食従業員の検便
このうち実務で頻繁に関わるのは、上の3つだと思ってもらって大丈夫です。項目ごとに「〇・△・×」で必須度が変わってくるので、最初は比較表を手元に置きながら確認していました。
| 健康診断項目 | 雇い入れ健康診断 | 定期健康診断 | 特定業務従事者 の健康診断 | 海外派遣労働者 の健康診断 |
| 既往歴および業務の調査 自覚症状・他覚症状の有無 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
| 身長 | 〇 | △ | 〇 | △ |
| 体重、視力、聴力 | 〇 | 〇 | △ | 〇 |
| 腹囲 | 〇 | △ | 〇 | 〇 |
| 胸部X線検査 | 〇 | △ | △ | 〇 |
| 喀痰検査 | × | △ | △ | △ |
| 血圧測定 尿検査 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
| 採血検査*、心電図 | 〇 | △ | △ | 〇 |
あなたも最初は表を見ながら「これは必須、これは条件付き」と一つずつ確認する形で大丈夫ですよ。慣れてくると、対象者の業務内容を聞いただけで必要な項目がぱっと浮かぶようになってきます。
検査項目でとくに迷いやすいのが採血検査の内訳です。
【採血検査項目】
貧血検査:赤血球数、Hb値
肝機能検査:AST、ALT、γ-GTP
血中脂質検査:LDLコレステロール、HDLコレステロール、トリグリセリド
血糖検査:HbA1c、血糖値
血糖検査はHbA1cのみでは不可という点、私も一度確認漏れをして焦ったことがあります。細かいルールですが、覚えておいて損はないポイントです。
派遣労働者の健康診断は誰が実施する?
「うちの部署に派遣社員さんが増えたけど、健康診断ってどっちが手配するんだろう?」と聞かれたこと、ありませんか?私も企業に入ったばかりの頃、この質問にすぐ答えられなくて調べ直した記憶があります。
答えはシンプルで、派遣労働者の一般健康診断は派遣元事業主に実施義務があるんです。派遣先の会社が独自に健康診断を用意する必要はありません。
とはいえ実務上は、派遣先の産業保健師として「本当に受診済みか」を確認する場面が出てきます。私は派遣会社側の担当者に直接連絡を取り、受診状況を確認したことが何度もありますね。
制度上の実施義務者と、現場での確認作業は別物だと考えておくと、混乱せずに対応できると思います。
①雇い入れ時健康診断|産業保健師の実務対応
実施目的と対象者
新入社員が入社してくると、まず最初に案内するのが雇い入れ時健康診断です。産業保健師にとって、これは1年の中でも特に忙しい時期のイベントと言ってもいいかもしれません。
対象はすべての労働者で、事業者が雇い入れ時に必ず実施するものです。ここで押さえておきたいのが、医師の判断であっても健康診断項目を省略できないという点なんですよね。
雇い入れ時健康診断には、こんな目的があります。
- 労働者の入社後の健康管理の基礎資料をつくる
- 健康管理の対象となる健康状態を把握する
- 労働者を適正な部署に配置する材料にする
私が新卒採用の担当者から「この人、配置転換しても大丈夫ですか?」と相談を受けたとき、まず確認するのがこの雇い入れ時健康診断の結果でした。
入社後のあらゆる健康管理の出発点になる、そんなイメージを持ってもらえると分かりやすいと思います。
受診時期と省略できるケース
「入社前に受けた健康診断、そのまま使えないんですか?」
新入社員からこう聞かれたこと、あなたにもありませんか?私も担当したての頃、この質問への答えに自信が持てず先輩に確認しに行った覚えがあります。
受診時期の基本ルールは次の通りです。
- 採用決定後から就労開始前後3か月以内に実施する
- 入社前の受診でも問題ない
- 入社前3か月以内に必須項目を受診し、結果を会社に提出していれば省略できる
この「3か月以内」という期間、意外と忘れがちなんです。入社日から逆算して案内するタイミングを間違えると、再受診をお願いすることになってしまうので注意が必要ですね。
もう一つ覚えておきたいのが、雇い入れ後1年以内であれば定期健康診断を省略できるという点です。特定業務従事者の健康診断については6か月以内の受診であれば省略可能になります。

この省略ルール、最初は複雑に感じるかもしれませんが、実務では「いつ受けたか」を確認する癖をつけておけば自然と判断できるようになっていきますよ。
②定期健康診断|産業保健師の実務対応
実施頻度と対象者
産業保健師の1年間のスケジュールの中で、一番大きなイベントと言えばやっぱり定期健康診断だと思います。
私が企業に入って最初に手帳に書き込んだ予定も、この定期健康診断の実施日でした。
対象はすべての労働者で、事業者には1年に1回の実施義務があります。目的は次の2つに整理できます。
・生活習慣病
・作業関連疾患対策
「毎年同じことの繰り返しなんじゃないの?」と思う人もいるかもしれません。
でも実際は、対象者数の管理や未受診者へのフォローなど、年によって対応が変わってくるんですよね。
あなたの職場でも、毎年少しずつやり方を工夫している部分があるのではないでしょうか。
雇い入れ時健康診断との違い
「雇い入れ時と定期って、何が違うんですか?」新人保健師さんからよく聞かれる質問です。
正直、私も最初は項目を並べて見比べないと自信を持って説明できませんでした。
大きな違いは次の2点です。
・喀痰検査が定期健康診断で追加される
・既往歴の確認範囲が過去1年間に限定される
雇い入れ時はその人の入社以降すべての健康管理の基礎資料になるので、既往歴も広めに確認します。
一方、定期健康診断は「直近1年でどう変化したか」を見る位置づけになっているんです。
この違いを理解しておくと、社員さんから項目について質問されたときにも、スムーズに答えられるようになりますよ。

私は面談の中で「去年と比べてどうですか?」という聞き方をよくしていましたが、これも定期健康診断の目的を踏まえた声かけの一つです。
③特定業務従事者の健康診断|産業保健師の実務対応
実施頻度(6か月ごと)
「深夜勤務のスタッフだけ、健康診断の頻度が違うんですけど…」企業に入ったばかりの頃、私はこの仕組みを知らずに戸惑った記憶があります。
看護師時代、自分自身が夜勤明けに健康診断を受けていたのに、まさかそれが「特定業務従事者の健康診断」だったとは気づいていなかったんですよね。
特定業務に該当する場合、実施間隔は6か月ごとになります。定期健康診断が年1回であるのに対し、こちらは倍のペースで実施する必要があるんです。
・対象は「業務上有害」とされる業務に従事する労働者
・実施間隔は6か月ごと
・検査項目は基本的に定期健康診断と同じ
「なぜこんなに頻度が高いんだろう?」と最初は疑問に思いませんでしたか?
答えはシンプルで、身体への負荷が大きい業務だからこそ、変化を早めに拾う必要があるからなんです。
対象となる特定業務一覧
対象業務の一覧を初めて見たとき、正直「こんなに種類があるの?」と驚いた覚えがあります。産業保健師としてこの一覧を把握しておくと、対象者リストを作る際にとても役立ちますよ。
代表的なものを挙げると、こんな業務が該当します。
・多量の高熱物体を扱う業務、著しく暑熱な場所での業務
・多量の低温物体を扱う業務、著しく寒冷な場所での業務
・放射線にさらされる業務
・重量物を取り扱うなど重激な業務
・深夜業を含む業務
このほかにも、じん埃や振動、異常気圧下での業務など細かく規定されています。実務では「この業務、特定業務に該当するかな?」と迷うケースが必ず出てくるんですよね。
私は判断に迷ったとき、必ず一覧に立ち返って確認するようにしていました。

看護師で夜勤経験がある人なら、自分自身が特定業務従事者健康診断の対象だったと気づくはずです。
④海外派遣労働者の健康診断|産業保健師の実務対応
派遣前・帰国時の実施タイミング
海外赴任が決まった社員さんから「健康診断、いつ受ければいいですか?」と聞かれたとき、私は最初にちょっと戸惑いました。国内の健康診断とはタイミングの考え方が違うんですよね。
海外派遣労働者の健康診断は、次の2回に分けて実施します。
・派遣前の健康診断
・帰国時の健康診断
対象となるのは、6か月以上の海外派遣を予定している場合です。「数週間の出張なら対象外なんですか?」と聞かれることもありますが、あくまで6か月以上という期間が基準になります。
正直、この制度自体を知らない社員さんの方が多い印象です。だからこそ、産業保健師から早めに案内しておくことが、赴任準備をスムーズに進めるポイントになると感じています。
定期健康診断に追加される検査項目
海外派遣労働者の健康診断、実は法律上の規定がないというのをご存知でしょうか?私も最初にこの事実を知ったとき、少し意外に感じました。
定期健康診断や特殊健康診断のような法的規定はないものの、安全配慮義務の観点から実施されているんです。その分、定期健康診断に次の項目が追加されます。
- 腹部画像検査(胃部X線、腹部エコー検査)
- 血中の尿酸
- B型肝炎ウイルス抗体検査
- ABO式およびRh式の血液検査(派遣前のみ)
- 糞便塗抹検査(帰国時のみ)
「なんでこんなに項目が増えるんだろう?」と思いませんか?
海外では感染症リスクや医療体制が国内と大きく異なるケースがあるので、より広い範囲で健康状態を把握しておく必要があるんです。
私が担当した社員さんの中には、赴任前の検査で持病が見つかり、渡航スケジュールを調整したケースもありました。法的義務ではないからこそ、産業保健師がしっかり説明して受診を後押しする役割が大きいと感じています。
⑤給食従業員の検便|産業保健師の実務対応
実施目的(食中毒・感染症予防)
給食従業員の検便は、正直なところ対応する保健師はごく少数です。しかし、対象者がいる場合は対応できるようにしておきましょう。
「検便って、給食担当の人だけ特別にやるものなんですか?」新人看護師さんから聞かれて、私も改めて説明しながら理解を深めた記憶があります。
健康診断というと採血やレントゲンをイメージしがちですが、検便もれっきとした健康診断の一つなんですよね。
対象となるのは、食堂や炊事場で給食業務に従事する労働者です。目的はシンプルで、次のような病原体の保有状況を確認することにあります。
- 赤痢菌
- サルモネラ属菌
- 健康保菌者(症状はなくても病原菌を保有している人)
「症状がないのに検査するの?」と疑問に思う方もいるかもしれません。でも実はここがポイントで、健康保菌者は自覚症状がないまま食中毒の原因になり得るからこそ、事前に確認しておく必要があるんです。
対象となる業務範囲
企業では、社員食堂を運営するスタッフの入れ替わりが意外と多く、そのたびに検便の手配をします。異動や配置換えのタイミングでも改めて検便が必要になる、というのは知らないと見落としがちなポイントです。
対象になるタイミングを整理すると、こんな形になります。
・給食業務への雇い入れ時
・給食業務への配置換え時
「もう何年もこの業務をしているから大丈夫」というわけにはいかないんですよね。配置が変わるたびに、産業保健師として検便の実施漏れがないかチェックする役割があります。
給食業務は他の健康診断と違って対象者が限定されるぶん、見落としやすい項目でもあります。あなたの職場でも、対象者リストに給食スタッフが正しく含まれているか、一度確認してみてください。
>>参考:イラストでまるわかり!健康診断・保健指導パーフェクトBOOK 検査所見一覧&そのまま使える面談用シートつき (産業保健と看護2019年春季増刊) [ 畑中 純子 ]健康診断実施後、産業保健師が行う事後措置とは
健康診断が終わった瞬間、正直「やっと終わった」とホッとしませんか?でも産業保健師の本当の仕事は、実はここからなんですよね。
健康診断の結果が出たあと、産業保健師が行うのが事後措置です。ざっくり流れを整理すると、こんなイメージになります。
- 健康診断結果を確認し、有所見者を抽出する
- 医師の意見を聴取する(就業判定)
- 必要に応じて受診勧奨を行う
- 就業上の措置(配置転換、作業制限など)を検討する
- 本人へのフィードバックと保健指導を行う
私が初めて有所見者のリストを渡されたとき、「この人にどう声をかければいいんだろう」と正直悩みました。
数値だけを見て機械的に連絡するのではなく、本人の状況や業務内容を踏まえて伝え方を工夫する必要があるからです。
たとえば血糖値に異常があった社員さんに受診勧奨をした際、最初は「忙しいから」と後回しにされてしまったことがあります。そこで業務内容と体調の関係を具体的に説明したところ、納得して受診してもらえたという経験がありました。数値を伝えるだけでなく、その人にとっての意味づけをすることが、産業保健師の腕の見せどころだと感じています。
事後措置は健康診断の中でも特に重要度が高く、内容も複雑になりやすい部分です。
受診勧奨のタイミングや就業判定の考え方について詳しく知りたい方は、産業保健師の健康診断の事後措置の流れ【受診勧奨と対応方法】もあわせて参考にしてみてください。
まとめ|産業保健師の健康診断業務のポイント
ここまで、産業保健師が対応する健康診断5種類について解説してきました。振り返ると、こんな内容だったと思います。
- 雇い入れ時健康診断:入社時に全労働者へ必ず実施する
- 定期健康診断:年1回、全労働者が対象
- 特定業務従事者の健康診断:特定業務に該当する場合、6か月ごとに実施
- 海外派遣労働者の健康診断:派遣前・帰国時の2回、6か月以上の派遣が対象
- 給食従業員の検便:給食業務への雇い入れ・配置換え時に実施
こうして並べてみると、種類は多いものの、それぞれに明確な目的とタイミングがあることが分かってもらえたのではないでしょうか。

私自身、産業保健師になりたての頃はこの5種類を整理しきれず、何度も一覧に立ち返っていました。
あなたも最初のうちは、この記事を見返しながら実務に取り組んでもらえたら嬉しいです。
そして、健康診断は「実施して終わり」ではないんですよね。むしろ産業保健師にとって本当に力が問われるのは、結果を踏まえた事後措置の部分だと感じています。
有所見者への声かけ一つで、その後の受診行動が変わってくることも珍しくありません。
事後措置の具体的な進め方については、産業保健師の健康診断の事後措置の流れ【受診勧奨と対応方法】で詳しく解説しています。
また、面談記録を残しておくことも今後のフォローに必須です。記録の書き方に悩んでいる方は、産業保健師の面談記録はSOAPで良い?今後にも役立つ書き方を紹介もあわせて参考にしてみてください。
健康診断は産業保健師の実務の中でも基礎となる部分です。この記事が、あなたの日々の業務を整理するきっかけになれば嬉しく思います。

